護符は古代から現代に至るまで、さまざまな文化や宗教において保護や加護を求めるために使用されてきました。チベットと日本の事例を通じて、どのような状況やタイミングで護符が活用されるのかを考察します。
チベットにおける護符の使用
チベットでは、護符は日常生活や宗教行事の一部として広く使用されています。特に、土地や住居の新築、引越し、巡礼など、場所や環境が大きく変わる際に用いられることが多いです。これは、新しい環境に入ることによる未知のリスクや不安を軽減し、平穏を保つためです。
巡礼や引っ越しも、普段慣れ親しんだ場所ではないどこかへ移動するという意味で同様の位相にあるといえよう。また、新たに家屋を建造することは、時間的にも空間的にも「安定」していたところに(何もなかったところに)、人間の都合で土地に変化を加えるプロセスであるといえる。上述の祈祷文では「土地の状態や水の流れを変えてしまったこと、つまり、地面に穴を掘ったり、石をひっくり返したり……」などという具体的な言及があり、赦しを乞うている。
村上大輔; ムラカミダイスケ. 「境界」 に置かれるチベットの護符: 共同研究: チベット仏教古派及びポン教の護符に関する記述研究. 民博通信, 2019, 164: 20-21.
この引用からもわかるように、チベットでは土地の改変や新たな建造物の建設に伴う儀式が行われ、その際に護符が使用されることがあります。これにより、土地や環境に影響を与える行為に対して赦しを乞い、平穏を維持することが目的とされています。
日本における護符の使用
日本でも、護符は古くから信仰の対象として使用されてきました。特に、陰陽道においては、護符が重要な役割を果たしています。陰陽道では、特定の神や方位に対する畏敬や恐れを持ち、それに基づいて護符を作成し使用することが一般的です。
土公神という名は陰陽五行説の土を司る神の名です。
陰陽道ではこの神の留守中に土を犯すと激しく祟ると説いており、土用(土公神)対策に一番詳しいのが陰陽師ということになります。
陰陽師は、古代日本の律令制下において中務省の陰陽寮に属した官職で、平安の時代より、国家や天皇、貴族の求めに応じて暦や日の吉凶、方角の吉凶を防ぐ仕事をしてきました。
彼らがよく行なったのが、天皇や貴族の求めに応じ、護符を製作することでした。その護符の種類は多岐にわたり、方除けという、凶方位に向かってなにかする際に、災いが起きないようにする護符や、お金持ちになる護符、両思いになる護符など300種類を超えます。
陰陽師によって作られる護符は、日常生活のさまざまな局面で使用されます。特に、土地や建物に関わる活動(例えば、新築、改修、引越しなど)や特定の時期(例えば、土用など)において、その時期や行動が不運や災厄を招くと考えられる場合に使用されます。
まとめ
チベットと日本における護符の使用は、宗教的・文化的背景に根ざしたものであり、それぞれの社会で特定のリスクや不安を軽減するために使用されています。チベットでは土地や住居の変化に伴うリスク回避のため、日本では特定の神や方位に対する敬意と恐れから護符が使用されます。いずれにせよ、護符は人々の心の安定を図るための重要なツールであり、文化や信仰に深く根付いた伝統であることがわかります。